なぜ、ぎこちないの?不器用なの?
子どもたちの中には、巧みに体全体を協応して使えず不器用さが目立つ子どもが観察されることがあります。たとえば、片足跳びができない、はさみや箸などのカトラリーが上手に使えない、靴の紐が結べない等、粗大運動から微細運動、日常生活での動作にまで及びます。
この不器用を代表とする発達障害は、発達性協調運動症(development coordination disorder :DCD)と呼ばれます。運動や作業をスムーズに行なうのに必要な協調運動機能の発達に支障が生じるのが特徴です。
自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder : ASD)や注意欠如・多動症(attention deficit / hyperactivity disorder :ADHD)と併存するケースも知られています。
協調運動機能の発達を木にたとえると・・・
協調運動(coordination)とは【視覚】【聴覚】【前庭覚】【固有覚】【触覚】といった基本的な感覚(図:木の根っこ)からの情報を整理したり関連づけたりして、スムーズに生活するための働きのことです。
上図の木の根っこにあたる第1段階の感覚に問題があると、
❖ 体の動きや力の入り具合などの制御が難しい
❖ 力の入り具合の制御が難しいので、姿勢を保つのが困難
❖ 姿勢を保てないので、先生の話を注意して聴けない
というように、第2段階以上で積み上がる運動や学習面に、つまづきが出てきてしまいます。そこで、木の根っこ(感覚)や幹(情報の処理)を丈夫にするための活動を取り入れることが大切です。
根っことなる感覚を育てるには?
遊び運動を通してさまざまな感覚を受け取り、動作の土台となる力を育てていきます。具体的には、受け取った感覚の情報を整理し、体を巧みに使いこなすといった一連の過程の質を高めるために、重点的に5つのコーディネーション能力をトレーニングします。
運動療育の支援はどんなふうに行われるの?
AKIDSでは、2つのアプローチを組み合わせた支援が適切と考えます。
❖トップダウン(課題指向型)
できるようになりたい運動や作業を目標設定して主体的に取り組む
❖ボトムアップ(過程指向型)
特定の技能を直接的に教えるのではなく感覚統合や機能訓練を行う
トップダウン(課題指向型)のアプローチは、具体的に上達したい動作(ボール投げや逆上がり、とび箱、箸使い、ペン操作など)の技術を集中して教えるもので、多くの施設でさまざまな支援が実施されています。道具・環境を調節しながら難易度を上げ、徐々に援助を減らし、獲得したスキルを学校や日常生活で汎化させていきます。技能を細分化してスモールステップで向上させていく過程は、失敗を回避しながら行うため、自己効力感が高まり主体的な参加が続きやすいです。いわゆる、目標設定(Goal)-計画(Plan)-実行(Do)-評価(Check)というフレームワークを繰り返して動作の向上を支援していきます。
一方で、このトップダウン(課題指向型)の支援の場合、ねらいとした動作は上達するものの、そのほかの動作や協調運動機能そのものが改善するとは限りません。
そこで、日常生活や動作が困難となる背景・要因である基本的な感覚を育て、協調運動機能の底上げを図る、ボトムアップ(過程指向型)のアプローチも組み合わせます。
つまり、さまざまな感覚・遊び運動体験を通して、木の根っこである基本的な感覚にさまざまな情報を蓄積し、その情報を整理する幹となるコーディネーション能力を育てることで、協調運動機能を向上させる支援も取り入れます。
実際に、「ジャンプが出来ない」「集中力がもたない」というケースでは、ジャンプをするという一連の動作を分解してスモールステップで練習を重ねるトップダウンのアプローチと、色々な遊び運動に時間をかけて、感覚入力をするボトムアップのアプローチを組み合わせて支援を行いました。
感覚を育てると、どうなるの?
協調運動(coordination)の働きには【視覚】【聴覚】【前庭覚】【固有覚】【触覚】といった基本的な感覚(図:木の根っこ)からの情報の整理が欠かせません。これらの感覚のうち、前庭覚と固有覚は無意識に処理されるため自覚しにくいですが、自分の体についての情報を脳へ常に送っており、体の状態を整えています。
これらの感覚情報があやふやな状態だと、脳は適切に理解や処理ができず、動作もちぐはぐになってしまいます。しかし、この感覚の統合がうまく働くと、正確な情報が脳に入ってくるため、脳は体の状態や自分の置かれた環境を適切に理解でき、目の動き・姿勢・身体バランス・筋緊張・重力への安心感が整い、その状況に応じたスムーズな動作ができます。
「ジャンプが出来ない」「集中力がもたない」というケースでは、ジャンプをするという断片的なスキルが発達しただけではなく、ボール的当てや棒歩きなどその他の動作も上達しました。そして注意の持続も向上し、身体的にも心理的にも成長が見られました。
さまざまな遊び運動で蓄積された感覚が組織化されて脳に保存されることで、感覚統合が段階的に発達し、ボディイメージの形成が進んだものと考えられます。このことは、運動プランニング(慣れない動作に適応し、次第にその動作を無意識にできるようになるための感覚処理過程)の能力を高め、学校や日常生活で新しく出逢う運動や作業の実行に、大いに役立ちます。
体を動かすのは大切?
字を書く(微細運動)のが困難な場合も、姿勢の崩れを正す能力や、ペンとノートと手指の位置・腕を安定させる能力(粗大運動)が、その作業を支えているという視点が重要です。バランス能力と定位能力といったコーディネーショントレーニング
感覚統合のための遊び運動を、日常生活に取り入れることが有効です。子どもが体を動かす時間を増やすことは、スクリーンタイムを減らしたり、睡眠や食事習慣をより良くするためにも効果的です。運動による望ましい心身発育と生活習慣病予防は、自立の手助けにも繋がります。
<参考文献>
Ayres著、岩永竜一郎監訳『感覚統合の発達と支援』金子書房、2020年
Hirtz.P (1985) Koordinative Fahi-gkeiten im Schulsport,Volk und Wisse-n Volkseigener Verla rlin
中井昭夫著『DCDの子どもを理解し困りごとを解決する45の知識』合同出版、2022年
愛知児青2023発表
A case study of a 5-year-old child who overcame difficulties in jumping, ball throwing, and balancing exercises after movement therapy was presented at an ASCAP annual meeting.
AKIDS considers a combination of the two approaches to be appropriate for support.
●Top-down (task-oriented)
Set goals for exercises and tasks they want to be able to perform and work on them independently
●Bottom-up (process oriented)
Sensory integration and functional training rather than direct teaching of specific skills